- 1ホンダはFY26にEV関連損失1兆4,536億円を計上し、−4,143億円と初の通期営業赤字になった。
- 2二輪はFY26に利益率18.2%で過去最高の7,319億円を稼ぎ、売上の約18%で調整後営業利益の約70%を占めた(当社計算)。
- 3FY27第1四半期の営業利益は過去最高の5,307億円で、通期見通しは6,500億円に引き上げられたが、約5,200億円のEV損失はまだこれから。
- 42026年5月の計画で資本はEVから2030年3月期までの「Honda Hybrid」15モデルへ移り、カナダのEVバリューチェーンは延期された。
- 5二輪補助テストは11月10日の第2四半期決算を、二輪と四輪の利益率の差、目標に対する台数、EV損失の見込み、先行見通しで採点する。
Strengths
- 二輪の営業利益7,319億円、利益率18.2%
- FY26の二輪販売2,210万台
- ネットキャッシュ3.3兆円
- 実績あるハイブリッド技術
Weaknesses
- FY26営業赤字−4,143億円
- 四輪はEV損失除きでも利益率約0.3%
- FY26の四輪台数−8.9%
- FY27第1四半期のアジア四輪−37%
Opportunities
- インドの生産能力を2028年に約800万台へ
- 2030年3月期までにHonda Hybrid 15モデル
- 2029年3月期に営業利益1.4兆円超
- 三菱自動車からのASEAN向けピックアップ
Threats
- FY26の米国関税負担3,469億円
- 中国の台数減と合弁の減損
- アジアの二輪需要への依存
- EV損失は最大2.5兆円
ホンダは2026年3月期に初めて通期の営業赤字を計上しました。営業損益は−4,143億円で、EV関連の営業損失1兆4,536億円が響いています。同じ年、二輪事業は営業利益率18.2%で過去最高の7,319億円を稼ぎました。その3カ月後の2026年4〜6月には、グループ全体で四半期として過去最高の5,307億円の営業利益を上げ、通期の営業利益見通しは5,000億円から6,500億円に引き上げられています(2027年3月期第1四半期決算)。
このホンダのSWOT分析では、この振れの背後にある強み・弱み・機会・脅威を整理し、多くの解説が背景として片付けている関係を一つ取り上げます。二輪事業が、EVからハイブリッドへの四輪事業の再建費用を払っているという関係です。下の二輪補助テストはそれを測るもので、ホンダのIRカレンダーで2026年11月10日に予定されている第2四半期(2026年4〜9月)決算で採点できるよう設計しています。
ホンダの会計年度は4月〜3月です。本稿では2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)をFY26、2027年3月期(2026年4月〜2027年3月)をFY27と表記します。数値はすべてホンダが公表したIFRSベースです。
二輪補助テスト
| 指標 | FY25 | FY26 | FY27 第1四半期 |
|---|---|---|---|
| 二輪事業 売上収益 | 3兆6,266億円 | 4兆188億円 | 1兆1,411億円 |
| 二輪事業 営業利益 | 6,634億円 | 7,319億円(過去最高) | 2,340億円(過去最高) |
| 二輪事業 営業利益率 | 18.3% | 18.2% | 20.5% |
| 四輪事業 営業利益率 | 1.7% | −10.0% | 5.0% |
| グループ営業利益 | 1兆2,135億円 | −4,143億円 | 5,307億円 |
| 二輪販売台数(千台) | 20,572 | 22,101 | 5,663(+10.1%) |
| 利益率の差(二輪−四輪) | 16.6pt | 17.9pt(EV損失除く) | 15.5pt |
出所:ホンダのFY26決算とFY27第1四半期決算。利益率の差の行と以下の比率は当社の計算であり、ホンダの公表値ではありません。
FY26の列は三通りに読めます。第一に、四輪事業は1兆4,111億円の赤字(利益率−10.0%)で、EV関連損失を足し戻しても利益率は約0.3%にとどまります。償却がなくても四輪はほとんど稼げていなかったということです。第二に、EV関連損失を除いたホンダの調整後営業利益は1兆393億円で、二輪事業はグループ売上の約18%でその約70%を稼ぎました。第三に、二輪の利益だけで1兆4,536億円のEV関連損失の約半分を賄えた計算です。二輪事業の資産は2兆7,100億円で資産利益率は約27%、対して四輪事業は12兆4,800億円の資産で赤字でした。FY27第1四半期の設備投資は二輪が176億円、四輪が6,263億円です。これらの比率はすべて当社の計算で、ホンダの公表値ではありません。
これが「補助」の構図です。資本が少なく収益性の高い事業が、資本が重く収益性の低い事業の立て直しを支えています。FY27第1四半期には四輪側の回復の兆し(四輪利益率5.0%、EV損失の計上なし)が見えましたが、ホンダはFY27にも約5,200億円のEV関連損失を見込んでいます(第1四半期決算説明スクリプト)。このテストが問うのは、差が縮まるのは四輪が良くなっているからなのか、二輪が落ちているからなのか、です。
| # | シグナル(ウェイト) | 変数は一つ | 合格 | 不合格 | 未判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 補助ギャップ(25%) | 上期の二輪利益率−上期の四輪利益率(ホンダが開示するEV損失を除く) | 14pt以下 | 17pt以上 | 両者の間、またはEV損失がセグメント別に開示されない |
| 2 | 二輪の利益率維持(15%) | 上期の二輪利益率−FY26の18.2% | −1pt以上 | −2.5ptより悪い | 両者の間 |
| 3 | 二輪台数の計画比(10%) | 上期の二輪台数の伸び−FY27目標2,280万台が示す+3.2% | +3pt以上 | 0pt未満 | 両者の間 |
| 4 | 四輪台数の計画比(15%) | 上期の四輪台数の伸び−FY27目標339万台が示す約0% | −2pt以上 | −5ptより悪い | 両者の間 |
| 5 | EV損失の見込み(10%) | FY27のEV関連損失見込み(約5,200億円)との比較 | 5,200億円以下で再提示 | 5,200億円超に引き上げ | 再提示なし |
| 6 | 先行見通し(25%) | FY27営業利益見通し(6,500億円)との比較 | 引き上げ | 引き下げ | 6,500億円で据え置き |
基準の根拠:利益率の差はFY25が16.6pt、FY26がEV損失除きで17.9pt、第1四半期が15.5ptでした。シグナル1は、上期がこの範囲をはっきり下回ったときだけ合格です。シグナル3と4は単純な伸び率ではなく、ホンダ自身のFY27台数目標(二輪2,280万台、四輪339万台)とのギャップを測ります。第1四半期は二輪が目標ペースを6.9pt上回り、四輪は6.4pt下回りました(−6.3%、いずれも当社計算)。シグナル6のウェイトが4分の1あるのは、2026年に当社が行った決算の振り返りで、直近の四半期よりも先行見通しの方が株価を動かすことが多かったためです。FY27営業利益について確認できる公表コンセンサスは見つからなかったため、シグナル6は市場予想ではなくホンダ自身の6,500億円を基準に採点します。
このテスト自体が誤りだと分かる条件: 四輪の改善で差が縮まる一方、ホンダが同時にEV損失の見込みを引き上げた場合、再建は計画より高くつき、差の縮小は回復ではなく計上時期のずれにすぎません。その場合はシグナル5がシグナル1に優先します。
いまのホンダ
多くのホンダSWOT分析は、2024年や2025年初めには正しかった主張をまだ繰り返しています。2026年11月2日時点の状況は次のとおりです。
| 古い主張 | 何が変わったか | 時期 | 出所 |
|---|---|---|---|
| ホンダは日産と経営統合する | 統合協議は終了。2024年のホンダ・日産・三菱自動車の協業に関する覚書は存続し、ホンダは三菱自動車と別途、製品供給の覚書を締結 | 2025年2月13日、2026年10月22日 | Motor1、ホンダ |
| EVに10兆円を投資、2030年にEV比率30% | 計画は2025年5月に7兆円へ縮小され、30%目標も撤回。新しい3カ年計画では6.2兆円のうちEVは約0.8兆円 | 2025年5月、2026年5月14日 | ビジネスブリーフィング |
| 0シリーズが2026年に米国で発売 | 0 SUV、0 Saloon、Acura RSXの米国生産を中止。損失は複数年で最大2.5兆円に達する可能性 | 2026年3月12日 | ホンダ |
| AFEELAの納車が2026年に始まる | Electrekの報道によれば、AFEELA 1は中止 | 2026年3月25日 | Electrek |
| ホンダは安定して年1.2兆円前後の営業利益を出す | FY26は4,143億円の営業赤字で、初の通期営業赤字 | 2026年5月14日 | FY26決算 |
| 中国は成長市場 | FY26のアジア四輪販売は118.2万台から92.9万台へ減少(中国−19.9万台)。中国合弁で909億円の減損 | FY26 | FY26決算 |
| カナダがホンダのEV拠点になる | カナダのEVバリューチェーン構築は無期限で延期 | 2026年5月14日 | ビジネスブリーフィング |
| 日本車には25%以上の米国関税 | 2025年9月の大統領令で15%に(2025年8月7日に遡及)。それまでの27.5%を置き換え | 2025年9月 | 米連邦官報 |
| ホンダの将来はEV優先 | 次世代「Honda Hybrid」を2030年3月期までに15モデル、主に北米向けに2027年から投入 | 2026年5〜10月 | Honda Hybridの名称発表 |
ホンダの概要
| 指標 | 値 | 出所 |
|---|---|---|
| FY26 売上収益 | 21兆7,966億円(+0.5%) | FY26決算 |
| FY26 営業利益/利益率 | −4,143億円/−1.9%(FY25:1兆2,135億円/5.6%) | FY26決算 |
| FY26 親会社株主に帰属する当期損失/EPS | −4,239億円/−106.06円 | FY26決算 |
| FY26 EV関連損失 | 営業損失1兆4,536億円+持分法損失1,241億円(中国合弁の減損909億円を含む) | FY26決算 |
| FY26 調整後営業利益 | 1兆393億円(4.8%)、EV関連損失を除く | FY26決算 |
| FY26 関税影響 | 前年比−3,469億円(うち四輪−3,316億円) | 第4四半期決算説明スクリプト |
| FY27第1四半期 売上収益/営業利益 | 6兆615億円(+13.5%)/5,307億円(+117.4%、利益率8.8%) | FY27第1四半期決算 |
| FY27第1四半期 親会社株主に帰属する四半期利益 | 4,509億円 | FY27第1四半期決算 |
| 金融事業を除くネットキャッシュ(2026年6月30日) | 3.3兆円 | 第1四半期決算説明スクリプト |
| FY27見通し(2026年8月5日) | 売上収益24.15兆円、営業利益6,500億円(5,000億円から)、当期利益4,000億円、1ドル155円(145円から) | 第1四半期決算説明スクリプト |
| FY27 設備投資計画 | 1.28兆円(L-H Batteryの米国工場建屋の取得を含む) | 第1四半期決算説明スクリプト |
| 株主還元 | FY26の自社株買い6,709億円、自己株式1兆460億円を消却。FY27配当70円、DOE 3%目標 | FY26決算 |
2027年3月期第2四半期 決算プレビュー:11月10日
2026年11月2日、発表の8日前に公開した時点の内容です。
| 項目 | 発表前の数値 | 注記 |
|---|---|---|
| FY27 営業利益見通し | 6,500億円 | 第1四半期だけで5,307億円、通期見通しの81.6%(当社計算) |
| 2026年7月〜2027年3月の残り | 3四半期で約1,190億円 | 当社計算。ホンダがなお見込む約5,200億円のEV損失と整合 |
| FY27 EV関連損失 | 約5,200億円を見込み、第1四半期の計上はなし | シグナル5 |
| 為替前提 | 1ドル155円 | 8月に145円から変更 |
| 関税影響 | 見通しではFY26比+1,470億円、第1四半期は+781億円 | 米国関税率の引き下げ |
| コンセンサス | 未確認 | 公表されたコンセンサスを確認できず |
まずシグナル6を見てください。EV損失の見込みを変えずに見通しを引き上げれば、四輪の回復がホンダの計画より速いことを意味します。見通しを据え置いたうえで第2四半期にEV損失を計上すれば、再建はホンダの説明どおりに進んでいることになります。
ホンダの強み
- 四輪のどの車種も及ばない規模の二輪事業: FY26の販売台数は2,210万台(+7.4%)、うちアジアが1,870万台。営業利益は過去最高の7,319億円(FY26決算)。
- 二輪の利益率は2年続けて18%超、 FY27第1四半期は過去最高の20.5%。
- 財務基盤: 2026年6月30日時点で金融事業を除くネットキャッシュ3.3兆円。EV関連損失とFY27の70円配当を支えるクッションになります。
- ハイブリッドの技術: 再建は、ゼロから作る技術ではなく、すでに販売している技術に資本を振り向けるものです。
- 金融事業: FY26の利益率7.8%、FY27第1四半期10.3%。二輪に次ぐ安定した稼ぎ手です。
ホンダの弱み
- 四輪はほとんど稼げていない: 四輪の利益率はFY25が1.7%、FY26はEV損失を除いても約0.3%(当社計算)。
- 損失の大きさ: FY26のEV関連営業損失は1兆4,536億円、FY27にも約5,200億円を見込み、3月12日の発表では複数年で最大2.5兆円。
- 台数の減少: 四輪販売はFY26に8.9%減の338.7万台、FY27第1四半期も6.3%減。FY27目標の339万台は横ばいを保つ水準にすぎません。
- 中国: FY26に中国で19.9万台減ったあと、FY27第1四半期もアジアの四輪販売は37%減(20.2万台→12.7万台、当社計算)。
- 1,063億円の不利な契約に係る引当金: FY26に「ある提携契約に基づき共同開発した」EVについて計上。再建前の提携判断のコストです。
ホンダの機会
- インドの二輪: 生産能力を625万台から2028年までに約800万台へ引き上げる計画。ホンダは世界の二輪市場が2030年までに約6,000万台になると見ています(ビジネスブリーフィング)。
- Honda Hybrid: 2030年3月期までに次世代ハイブリッド15モデルを主に北米向けに2027年から投入。L-H BatteryのEV向けラインの一部はハイブリッド用電池に転換。
- 利益目標: 2029年3月期に営業利益1.4兆円超、2031年3月期にROIC 10%を目指す(ビジネスブリーフィング)。
- 小型で手頃なEV: 2028年に日本で投入するN-BOXのEVは、中止した米国の0シリーズよりリスクの小さいEVの入り口です。
- 統合なしの提携: 2026年10月22日の三菱自動車との覚書で、ホンダは自社開発なしに、2028年からASEANでトライトンベースのピックアップを扱えます。
ホンダの脅威
- 関税: 米国の税率は15%に下がりましたが、FY26には3,469億円の負担となり、FY27見通しに織り込んだ改善はこの税率が続くことが前提です。
- 中国: アジアの四輪販売はFY27第1四半期も減少(−37%)し、FY26には中国合弁で909億円の減損を計上。一度失った地位を取り戻すのは容易ではありません。
- 二輪への依存: インドやインドネシアの需要が鈍れば、四輪がまだ支えを必要とする時期に補助が細ります。
- 為替: FY27見通しは1ドル155円が前提で、円高になれば利益の余裕が縮みます。
- EVの時期のリスク: EV市場がホンダの現在の想定より早く転換すれば、ハイブリッドへの転換で二度目の出遅れになりかねません。
経営陣
三部敏宏氏が取締役 代表執行役社長を務めています。2026年5月14日のビジネスブリーフィングで、EV投資の削減、「トリプルハーフ」の目標、ハイブリッドへの製品計画の転換を示したのも三部氏です。
ホンダのTOWSマトリクス
| 機会 | 脅威 | |
|---|---|---|
| 強み | SO: 二輪の現金と3.3兆円のネットキャッシュで、四輪の回復を待つ間にインドの生産能力を約800万台へ拡大する。 | ST: ハイブリッド技術と現地生産モデルで15%関税下の米国に売り、見通しに織り込んだ関税改善を守る。 |
| 弱み | WO: ASEANのピックアップは新たな資本ではなく三菱自動車との覚書で補い、四輪の設備投資をHonda Hybridに集中する。 | WT: 補助ギャップが再び広がれば、二輪投資に手をつける前に自社株買いを減速する。 |
TOWSの手順はSWOTからTOWSマトリクスを作る方法を参照してください。
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